苦い思いを呑み下ろした。
会社側のあまりに悪質な労務攻勢に、心の底から憤怒が湧き上がって来た。
大臣は、癇癪を爆発させるように、ソファの肘を叩いた。
一瞬だったが、晴美は指先が白くなるほどグラスを強く握り、目に力を込めて知子を睨んだ。
泣き出すより早く、俺は再び直立させられた。至近距離から観音菩薩の三白眼に睨(ね)めつけられる。
何の気なしの感想は、思いのほか樹里をえぐったらしい。色白の頬にカッと朱が昇る。これは血の気が昇るほうのネタか、と入江は冷静に観察した。
真奈の感情はマイナスの方向に力いっぱい振り切れた。
「どうしてそんなことー平気で話せるんですか!」
その熾火(おきび)のような感情はずっと胸の裡に燻っている。
滾(たぎ)るような憤怒の感情が脳髄を駆け巡る。
頭を沸騰しそうだ。
七尾の中で、どす黒い感情が一つ弾けた。
こめかみの奥で、何かがぴしぴしと音を立てた。目の奥が赤くなり、間島の顔がかすむ。
「何だと」植山の目がすっと細くなる。
心中では、さぞかし憤怒のマグマが沸き起こっているだろう。
怒髪天を衝く、とはこういうことを言うのだろう。仁王立ちになった稲見は顔を真っ赤にして怒っていた。
「十時半にって言ったよ」梢は頬の中に空気を入れた。「いないんだもん」
ーーー母さんのせいか。
きっとそうだ。腹に黒い怒りが生まれた。
実利優先の小牧の発言は正しいと分かっていたが、それでも感情が呑み込むのを拒否する。
意地悪な気持ちが腹の底から湧き出てくるのを止められなかった。
井澤が彼女を睨みつけ、私たちの間を体を斜めにして通り抜けた。乱暴に通用口のドアを閉め、怒りと拒否の空気をその場に残していく。
こういう男に靖子は惚れたのだなと石神は思い、小さな泡が弾けるように嫉妬心が胸に広がった。
「私はお義母さんのせいでこの家から出られないんです!」
涙があふれ出した。「そんな私に誰が噂話を聞かせてくれるっていうんですか! 友だちの誘いもいつも断ってるんですよ! お正月には田舎で同窓会もあったんです!」
激昂の波が腹の底から押し寄せてきた。
止められなかった。
心の中から悪魔を追い出すには外の空気を吸うのがいちばんだ。
彼じゃなくてお前が撥ねられたらよかったのに。一瞬で黒い感情が煮上がる。
マグマが沸々と怒りのエネルギーを溜めこんでいる。いつだったか、そんな映像をテレビで見たことがある。今にも志々子のマグマが爆発しそうな予感がした。
五嶋が十センチの距離から私を睨み、崩れ落ちるように椅子に座り込むと、両の拳をテーブルに叩きつけた。
啓子は胸にくすぶったむかつきを堪えながら店長に話した。
タクシーの運転手に行き先を告げた時には、頭の中が火にかけた薬缶(やかん)のように煮えたぎっていた。
バーボンをロックでがぶ飲みしたが、鉛を呑み込んだような思いは解消されなかった。
おれはグラスを持ったまま固まっていた。怒りと屈辱感が体中を満たしていくようだった。声を出そうとすれば怒鳴りだしそうだし、身体を動かそうとすればグラスを投げつけそうだった。
一メートルほどの間隔を置いて向き合うと、彼の怒りがはっきりと、熱のように伝わってくる。
「だったら抜ければいいじゃないですか。自分から手伝いたいといっておいてきて、活動にケチをつけるって、どういうこと?」松本敬子の口調は尖り、目尻が吊り上げってきた。
怒りで頬の肉が引きつるのを堪えながら、星野は笑みを浮かべた。
「お嬢さんは脳死判定を受けていません」
「何? 都合が悪いの?」真緒の声が不機嫌そうに尖った。
血走った目で湧き起こる感情を懸命に堪えている。
「急ぎなんですか?」
「そう。だって聞いたでしょ? 部長、明日の昼から出張だって」
直美は、喉の奥から酸っぱいものがこみ上げてきた。自分でやってくださいと言いそうになるが、もちろんそんな勇気はない。
胸の中では灰色の気持ちが渦巻いていた。ちょっと油断すると、すべての生気が深い闇に引き込まれてしまいそうだ。今日は雲ひとつない晴天だったので、その対比が直美をますます暗澹たる気分にした。
「用は?」冷静に、冷静に、そう自分に言い聞かせた。胸の奥で産まれた種火が血管を焼き破り、血流に乗って体中を巡りはじめていたからだった。
湧き上がるどす黒い憤怒を必死で抑えた。
息を吐いて胸の中に生まれた炎鎮めた。
ヘルメットの下に目が隠れていたが、内心の不満が、捻じ曲がった唇に噴き出していた。
「それは分かってるけど……」不満そうに、沢崎が語尾を押し潰した。
何を考えてるんだと思った途端、怒りがはっきりと矛先を尖らせる。
こめかみに青筋を立てて吐き捨てるように言った。
「あんな酔っぱらいのせいで、貴重な夏休みを台無しにされてたまるかよ」
内側の苛立ちを丸めて吐き捨てるように言った。
胸の底から湧き上がってくる激情を抑えるのに必死だった。
「藤崎は退院している」
その言葉を聞いて、からだの中に電気のようなものが駆け巡る。腹の底からどす黒い感情がこみ上げてきた。
さすがに返す言葉がなかった。とはいえ、謝るような気持ちは湧いてこない。やすりで引っかくような彼の言い方に、感情が波打っている。