小説が好きで小説家の表現の仕方をまとめただけの資料です。
「何の資金ですか」
やがて小茂田は資金使途をきいた。
小茂田はかけていた肘掛け椅子から体を乗り出して説明を始めた。「銀行というのは社会的な存在でして、資金の使い途ということについてかなり煩(うるさ)くいわれているんです」
高幡がまっすぐ赤松を見ると、ひょいと手を上げる。思わず腰を上げた。
そういったときの益田の顔は、げじげじの眉をこれでもかというぐらいに八の字にして、見るからに申し訳なさそうに見える。
随分待たされた。
むっとした赤松に、「そうなんですか」と相手はそっけない。だからなんだと言いたげな口調だった。
いま切ったばかりの電話に視線を結びつけたまま鼻息も荒く腕組みした赤松のデスクのところへ、宮代がやってきた。
興味を掻き立てられた赤松は、思わず体を乗り出した。
「書かれてないこと?」
きいた赤松に、宮代は意味ありげな視線を投げた。
赤松は児玉の横顔を穴のあくほどみつめた。
赤松は再調査依頼の手紙のコピーを取り出してテーブルを滑らせた。北村は黙ってそれをつまみ上げ、素早く目を通す。
「これが何か」
「再調査をしていただきたい」
赤松はいった。
「なんです?」
銅像のようだった北村の眉が動いた。
「見せていただいてないんです、その調査結果を」
じっと、赤松を見つめる目の中で、かたかたと精密機械が動いている音が聞こえるようだった。その目は、説明を求めるように、赤松の傍らで息を飲んでいる益田に向けられた。
沢田は、胸に湧き上がった猜疑心(さいぎしん)を隠して相手を見た。
「納得したかどうかはわからないね。だが、再調査は断った。理由が無いから。それとも、何かそちらの調査に問題でもあったのかな」
短く小牧は答え、そして不意に興味を抱いたかのようにきいた。「なんで」
最悪の事態、といった途端、全員が息を飲んだのがわかった。
それもそうだ、思ったからである。
点検項目の最後に、「その他」という項目を門田は作っていた。そこに、少々読みづらい文字で「事故後のハブ摩耗および亀裂」という項目が書き加えられていたのである。
その右側のチェック欄にあるチェックの印が、赤松の目に飛び込んできた。
「俺は……」
赤松はようやっとのことで言葉を絞り出した。「俺達は、門田に助けられたのか」
「そのようです」
谷山はいうと、深い皺を刻んだ顔でニッと笑った。
加藤は、微妙な言い回しでこたえた。
「どういうことだ、それは」
小牧の眼光が鋭くなり、加藤をますます窮地に追い込む。
その言葉の意味は、次第に沢田に染み込んできた。
ようやく沢田がきくと、「そういうことです」と加藤は沈欝な顔になった。
しびれを切らした沢田は、受話器を叩きつけて、販売部を出た。
「ちょっと話があるんだが、いいかな」
陰気な男の表情に不機嫌な色が混ざり合い、沢田を見上げる。
「見てのとおり打ち合わせ中だ。後にしてもらっていいかな」
「だめだ、今だ」
返事はない。代わりに探るような眼差しがこちらを見つめてきた。
「あったかときいてるんだ!」
だん、と拳をテーブルに叩きつけた。空気がぴんと張りつめ、室井との敵対姿勢が、鮮明になる。冷え冷えとした睨み合いになった。
「品質保証部内のことに首を突っ込まないほうが身のためだぞ、沢田」
呼び捨ては、自分のほうが五つほど先輩だということを思い出させようといたのかも知れなかった。