小説に出てきた名言 あなたの人生、片付けますより
他人がひと目見て気づくことでも、当事者は全く気づいてないことがある。だから、たとえ嫌われてもうるさがられても、誰かが口に出して言ってやらねばならない。
菜々美は黙って聞いていた。大人になる途中の心に、どう響いただろうか。
大人が当たり前だと考えることでも、子供は初めて耳にすることが多いものだ。そして、そのことに気づいていない大人は多い。大人は言葉を惜しんではならないのに、忙しさにかまけて子供を知らず知らずのうちにないがしろにしている。
「本当だ。お前はきっと何かを成し遂げる人間だ。ワシにはわかる」
とっておきの魔法の言葉は、なんの根拠もないが、人の将来なんでわからないから嘘とも言いきれない。そして、その言葉が生涯の心の支えとなることがある。
ワシが高校時代にグレていたとき、お袋は言った。
お前は特別な人間だよ。そんじょそこらのガキとは違う。何かをつかみ取る日がきっと来る。
いい加減なことを言いやがってとお袋に毒づいたが、本当は嬉しかった。単純だが、人生に希望を見た気がした。
「最近は面と向かって言ってくれる人がいなくなりました。いつの間にか、みんな相手の機嫌を損ねないことしか言わなくなった。誰だって悪者になりたくないてすからね。でも、恨まれてもいいから本当のことを言ってあげるのが本当の親切ではないでしょうか」
怒りを消すために、誰もいないキッチンで無理やりニッと笑ってみた。
すると、少し気持ちが明るくなった。