「あの人たち、日本語上手だよね。どうやって覚えるのかな」
「生きていくためなら人間は必死になるさ。変造テレカを作った奴らだってそうさ。必死だったんだ。NTTは必死じゃない分、いつだって奴らにつけこまれる」
「警察も、摘発したいなら必死で彼等の言葉を覚えなきゃね」
「ストックホルム症候群」おれはいった。
えっ、と尋ねるように彼女の唇が開いた。その表情は今までになく幼いものだった。
「テロリストと人質が長時間一緒にいると、両者の間に連帯感のようなものが芽生えてくるそうだ。どちらも早く事態を解決させたいということに変わりないからな。その心理のことをこう呼ぶらしい。007の映画でいってた」
「そもそもシャンパン作りは、シャンパーニュ地方のホービェー僧院だけに伝わる秘法だったの。それが地方全体に広がったわけ。で、その秘法を生み出したのが、僧院の酒倉係だったドン・ペリニョンさん。だからドンペリこそが真のシャンパンなんだって」
「週に一度は掃除してるからな」
「へえ、見かけによらない」
「習慣になれば何でもない。肝心なことは物を増やしすぎないことだ。余分なものはどんどん捨てていく。そうすれば掃除だってそれほど大変じゃない。ものの三十分もあれば終わる。一週間は一万八十分だから、三十分がんばれば残り約一万分を快適に過ごせるわけだ。逆に三十分の努力を惜しめば、不愉快な一万分を過ごさなければならなくなる」