「へえ」おれは間抜けな声を出した。それほど美しい夜空だった。無限に広く、限りなく漆黒に近いディスプレイに、無数の光源が点在していた。その配置は完璧だった。見つめていると、心が何かに吸い込まれそうになる。
おれは天井を見上げ、外国の映画俳優がやるようにお手上げのポーズをとった。
「あたし、絶対にしゃべらないから。死んでもしゃべらないから」樹理は強く断言した。その決心を表現したいのか、いい終えた後、唇を真っ直ぐに閉じた。
おれは親指と人差し指で両目を瞼の上から揉んだ。軽い吐き気もしてきた。
おれの実力をあっさりと無視した副社長の顔を目の端で捉え続けていた。
手回しもいいことで、という台詞を飲み込んで頷いた。
樹理はテーブルに頬杖をついた。今時の女の子には珍しく色白だ。陶器のような肌とでもいうのか、表面にごくわずかな凹凸さえない。若さの力だけではない。手間もかかっている。
おれの質問に彼女はため息をついた。華奢な肩が小さく上下した。
「いわなきゃだめなわけ?」
彼女の足がぴたりと止まった。機械仕掛けの人形の首がぎぎぎと音をたてて回るように振り向いた。
タクシーの運転手に行き先を告げた時には、頭の中が火にかけた薬缶(やかん)のように煮えたぎっていた。
バーボンをロックでがぶ飲みしたが、鉛を呑み込んだような思いは解消されなかった。
おれはグラスを持ったまま固まっていた。怒りと屈辱感が体中を満たしていくようだった。声を出そうとすれば怒鳴りだしそうだし、身体を動かそうとすればグラスを投げつけそうだった。