森沢明夫さんの作品は名言の宝庫です
森沢明夫さんの作品は、たくさんの名言がちりばめられているのでその言葉を噛み締めながら読んでいます。
ここでは、「ミーコの宝箱」から名言を抜粋しました。
「毎日、小さな宝物、か……」
「これ、おじいちゃんが教えてくれた、幸せになる秘訣です」
「いいな、それ」
どんな辛くても、身の回りの小さな宝物を見つけて、それを見詰めていれば、人はそこそこ幸せに生きていくことができる。おじいちゃんはそう教えてくれたのだ。
本当は、わたし自身を愛せなかったのではなくて、単に、わたしが置かれていた「環境」を愛していなかったのだ。いや、環境を愛すどころか、その環境にないものばかりを求めていたのだろう。その最たるものが、お母さんという存在であり、お母さんの手作り弁当であり、母性という名の愛と安堵だったのではないか。
わたしは、わたしの置かれた環境を愛せずとも、せめて受け入れるべきだったのかも知れない。そして、その環境のなかに存在していた父からの愛と、愛子さんからの優しい気遣いに目を向けることができていたならーー。わたしはどんな日々を過ごし、いま、どんなわたしになれていただろう?
夜になり、仕事から帰ってきた父は、台所で空っぽの弁当箱を見つけると、まるで子どもみたいに嬉しそうな顔をした。
「奈々、今日の弁当、美味しかったか?」
「え……」
「絶対にね」
「……」
「心ってね、傷つかないで、磨かれるだけなの。やすりと一緒だよ。やすりで磨くと、削られて痛むけど、でも、ごしごしやっているうちに、最後はぴかぴかに光るでしょ」
「……」
「チーコもね、ずっと心にやすりをかけられていたから、すごく痛かったと思うのーーでもね、そのおかげでいま、ぴかぴかに磨かれた心があるよ。ここにね」
そう言ってママは、わたしの膨らみかけた胸をチョンと突いたのだった。
鼻の奥がじんと熱くなったわたしは、涙をこらえてママを見た。