薬丸岳さんの「Aではない君と」の表現、描写
私は定年後の趣味と実益になればと、小説を書くことに挑戦しています。
しかし、出来上がったものを読み返してみると、自分の表現力や描写の稚拙さにがっくりします。
それを学ぶために、小説家の方々の素晴らしい表現、描写をここに残して学んでいこうと思っています。
今回は薬丸岳さんの『Aではない君と』です。
薬丸岳さんの作品を読むのはこれが三冊目ですが、これまでの二冊は衝撃的なものでした。
薬丸岳さんを知ったのは、神戸児童殺傷事件を思わせるすごい作品があると聞いて、調べてみると、それが薬丸岳さんの『友罪』でした。
ふと、翼が何かに反応したように頭を上げた。こちらに顔を向けた翼と目が合って、背中が粟立った。
感情を窺わせない眼差しだった。
吉永は翼の顔を見たいと、右手で涙を拭った。
翼が顔を上げて、じっとこちらを見つめていた。だが、底のない沼を見るようで翼の感情をまったく窺えない。
階段を上がって出口が近づいてくるごとに、不快な熱が肌にまとわりついてくる。
外に出ると眩しい日差しにさらされ、視界がゆらめいた。
神崎と軽くグラスを合わせて、水割りで唇を湿らせた。
「先ほど藤井さんの代理人のかたにご連絡しましたが、お会いすることも、手紙の受け取りも拒否されました」
「そうですか……」
わかりきっていたことだったが、鉛を飲み込んだように胸が詰まった。