生い立ちを嘆いている暇なんかないぞ。人生はおまえの考えているほど長くない。泣いたり憎んだり悩んだりする間に、一歩でも前に進め。立ち止まって振り返る人間は、けっして幸せになれないんだ
自己表現のできない女は損よ。大人の女なら必ずしも自己主張をする必要はない。でも、自己表現はしなくちゃだめ。主張は権利たけど、表現は義務。そのあたりをはきちがえると、上司に誤解されたり、同僚にうとまれたりする。実力も努力も正当に評価されない。
「こんなちっちゃな子供のいうことでも、そんちょうしてくれるんですか?」
「もちろんさ。子供を大切にするというのは、猫や犬みたいに可愛がることじゃあるまい。未来を大切にすることだよ。だからいたずらに子供扱いしてはいけないんだ。このごろでは親たちに子供と猫の区別がつかなくなってね。おかげで生意気な子やおませな子がいなくなった。若者たちまでがみんな子供のように幼い」
「いいかね、親と子の絆というのは、君の考えているほど弱いものじゃないんだよ。行くだけでいい。たのむ」
武田は子分に頭を下げた。多くを語ることができないのだから、そうでもするほかなかった。幸夫は良識ある男だ。心が通じればたぶん、親の前で下げたくない頭も、同じように下げてくれるだろうと思った。それでいい。下げたくない頭を下げてこそ男だ。
「何だかよくわからないですけど……わかりました。そうします」