表現、描写を小説から学ぶ 志駕 晃さんのスマホを落としただけなのにより
突然、二人の間を風がすり抜けて、毒島が首にかけていたタオルがひるがえった。青臭い草の臭いがする風だった。
麻美はプルトップを開けると、中の冷たい液体を一気に喉の奥に流し込んだ。
そしてオヤジような大きなため息をつくと、いつのまにかスマホが鳴り止んでいるのに気が付いた。
まるで子犬が尻尾を振るように一方的に好きになり、麻美の様々な初めてを捧げたにもかかわらず、いいように遊ばれあっさり捨てられた。東京にも恋愛にもまったく免疫のない時期だったからしょうがかいが、今でもあの時のことは心の奥の拭えない思い出として澱のように残っている。
小ぶりながら形の良いバスト。そしてその先にツンと上を向いたピンクの突起が無防備に写っている。黒い髪の毛をかきあげながら腰に手を置いた画像は、見事なウエストのくびれが強調されている。そして片膝をついている画像からは、黒いアンダーヘアとその周辺をはっきりと見ることができる。
「加賀谷、吸ってもいいか」
「どうぞ」
その時信号が青になり、再び車が動き出した。毒島は煙草に火をつけると、助手席の窓を少しだけ下げた。最初の一服を吐き出すと、煙が窓から流れていく。
それは午前中の静かなネットカフェには、ちょっとうるさすぎる音だった。男は慌てて鞄を抱えて、エレベーターホールまで移動する。同時に鞄の中から泣き叫ぶスマホを取り出して着信ボタンを押そうとしたが、見たことのない待ち受け画像に指が止まる。