2021-01-16から1日間の記事一覧
片方の眉をひょいと上げて、愉快そうな声でカイルが言った。 原田マハさんの暗幕のゲルニカより
あのときの戦慄。冷たい素手で心臓をわしづかみにされたような、あのひやりとした感覚。みつめるうちに発火して、めらめらと全身を包み込んだ炎のごとき衝撃。 ゲルニカ>。 ー私の運命を、人生を変えた、あの一作。 原田マハさんの暗幕のゲルニカより
「相変わらず君は熱心な読者のようだね、ヨーコ。ありがたいこった」 広げた新聞の向こう側で声がした。「ニューヨークタイムズ」のカイル・アダムスが分厚いコートを着たまま立っていた。トレードマークの丸眼鏡が真っ白に曇っている。瑶子は思わず笑ってし…
ウィンター・ホリデー (文春文庫) 作者:坂木 司 文藝春秋 Amazon 「だろうな。あいつは優しい奴だし」 俺がうなずくと、鞭のような声が飛んで来た。 「わかったようなこと、言わないで」 どこもかしこも、塗りつぶしたように真っ白。しかも目の前には、まだ…
ウィンター・ホリデー (文春文庫) 作者:坂木 司 文藝春秋 Amazon 「所有は安心を呼び、安心は退屈を呼ぶ。すると刺激を求める心はまた別の誰かを探すことになって、破局を迎える。これは人間関係の基本じゃないかな」 過去を疑ったところで、未来はない。 ま…
通勤客がいっせいに車内から溢れ出す。駅構内はすえて臭いか充満し、蒸し暑かった。 原田マハさんの暗幕のゲルニカより
灰が落ちて短くなったタバコを、山積みのカンヴァスの上に載せられた灰皿で揉み消すと、ピカソはようやく振り向いた。 原田マハさんの暗幕のゲルニカより
ピカソの創作に触れるとき、感情の針がいつも激しく揺れるのを、ドラは感じずにはいられなかった。 原田マハさんの暗幕のゲルニカより
ガウンを着て、スリッパをつっかけたピカソが、トメットの床に立ち、無地のカンヴァスに向かい合っている。背中越しに、タバコの紫煙がゆらゆらと立ち上がっているのが見える。 いかにしてこの無垢な画面をやっつけてやろうかと、思い巡らせているのだろうか…
ピカソの分厚いまぶたが、ゆっくりと開いた。窓辺に佇んでいるドラを、黒々とした目がみつめる。 原田マハさんの暗幕のゲルニカより
艶やかな頬の上を水滴が玉になって落ちていく。張りのある、しみひとつない、ほんのりと褐色を帯びた肌。豊かなまつげに縁取られた鳶色の瞳。形のよい唇。そこにたっぷりの口紅を載せれば、いっそう肉感的に輝く。真っ赤なマニキュアの指先で、唇にそっと触…
父親ほども年の離れた男の顔には、深い皺が刻まれている。閉じたまぶたの奥に隠れているのは、いかなるものでもその本質を瞬時に見抜いてしまう目だ。暗闇のように黒々としたふたつの目。そこに閃光が走った瞬間、自分は捕らえられてしまったのだ。 原田マハ…
セーヌ河は白々とやわらかく輝き、貨物船がのんびりと通り過ぎる。絹のドレスを切り裂くように、さざ波が船の後についてゆく。 原田マハさんの暗幕のゲルニカより
ウィンター・ホリデー (文春文庫) 作者:坂木 司 文藝春秋 Amazon おすすめ度 3.5 感動する ☆☆☆ 笑える ☆☆☆ スリル ☆ ほっこり ☆☆☆☆ ビックリ ☆ 先が気になる ☆☆ ためになる ☆☆☆ 心に残る ☆ 切ない ☆ 怖い 重い ☆ すいすい読める ☆☆☆☆ あらすじ 元ヤンキーで…