涙、泪、泣く表現、描写を小説から学ぶ
悲しみの表現 「心筋梗塞で死に目には間に合わんかった。この間会うたのが最後になってしもうた」 もう充分悲しんだつもりたったが、言葉が湿った。 「あん時、団子ばおすそわけしてもろうた。ええ母さんじゃったのう」 帚木蓬生さんの閉鎖病棟より
の表現 やはりこの人は優しいのだ。克子は鼻の奥が湿っぽくなるのを感じた。 池永陽さんのコンビニ・ララバイ
涙をグッとこらえる表現 『あかちゃんに、なにかのこしてあげて』 字を見ると、何の準備もしていなかったのに、急に鼻の奥が痛くなった。唇を噛んでいないと、視界が潤みそうになる。『なにか』。それは、親が引き取りに来たとき親子関係を証明する何かであ…
じわじわと涙がでる表現 「マリリーン、お誕生日おめでとう」 歌が終わり、いくつもの声が重なる。 「ありがとう」 そう言ったら、あっという間に瞳の表面が涙でいっぱいになった。 小川糸さんのつるかめ助産院より
「まりあちゃん」 先生が、しっかりと私の目を見据える。けれど、私は何をどう言葉にしてよいのかさっぱりわからない。 不安がひたひたと押し寄せてきた。なぜだか左目からだけ、ツーッと一筋涙がこぼれる。悲しみでも怒りでも絶望でも喜びでもない、名づけ…
涙ぐむ瞳の表現 「渡辺さん、私のこと、助けてくれたんですか?」 板谷はぼさぼさの髪の毛を整えることもせず、そこに立ちすくんでいる渡辺のことを見つめている。その瞳は、うっすらと張っている涙の膜で、静かに光っている。 朝井リョウさんの世にも奇妙な…
涙を我慢する表現 祖母と過ごした毎日が心に染みる。涙がこぼれ落ちそうになったけれど、喉の辺りでせき止められた。 小川糸さんの食堂かたつむりより
桧山は、恩地の掌に手を委ね、じっと顔を見上げたかと思うと、その眼から、はらはらと大粒の涙を雫した。言葉にはならないが、「すまん、すまん」と詫びている眼であった。 山崎豊子さんの沈まぬ太陽 アフリカ篇 下より 沈まぬ太陽(2(アフリカ篇・下))po…
人目がなくなると、涙が堰を切って流れた。 沈まぬ太陽 アフリカ篇 下より 彼女はぽろぽろと涙を流し始めた。声一つ上げようとしない。無言の涙だった。 三上延さんのビブリア古書堂の事件手帖より 秋庭の父は頬に一筋涙を光らせたままで静かに笑った。 有川…