危険な感じがするさま。また、不安を覚えるさま。
「金は欲しいだろうが、そんな―な思い迄して借りる必要もあるまいからね」〈漱石・道草〉
[派生]けんのんがる[動ラ五]けんのんさ[名]
出国を急ごうとする大統領夫人一行とそれを阻もうとする警察側との間には剣呑な空気さえ漂っている。
男の方は女ほどではないが、やはり剣呑な空気を振り撒きながら警官と睨み合っている。
携帯電話が胸の中で鳴った。
こちらの声を待つ長い、暗い間は、妻からの連絡である。
「もしもし、どうした」
さらに一呼吸おいてから、妻の剣呑な声がした。
<どうしたって……あなた、今どこにいるの?>
タバコを喫うために病棟から出ると、冷たい夜であった。妻の声は昏れ残る雑木林の稜線を越えて、やっと届くほどに心細かった。
ホテルという場所は決して優雅で華やかなだけでなく、剣呑なものも多く抱えた空間だと覚悟した者たちの共通の認識なのだろうと尚美は思った。
秋庭のほうはとっつきにくさと微妙に剣呑な人相で何とはなしに敬遠されていた様子だったが、入江はと言えばもう少し積極的に避けられているクチだった。
眩んだ視界が回復すると堂上が剣呑な顔で腰を上げており、郁の目の前には先程の来客女性が一眼レフのデジカメを手に笑っていた。
異様に静まり返った店内で、レジの店員が郁を見つめてから視線を奥へと泳がせた。剣呑に動き回る物音はそちらから聞こえてくる。
「奥野侑也ってのはお前か」
ーーさて、どう答えたもんかな。
心が踊った。謎の瞳に滲む剣呑さを眺めながら、隼人は考えていた。
山城は一人不貞腐れた表情を浮かべ、長い足を投げ出して足首をだらしなく組んでいる。そのうえ腕組みをして、剣呑な視線を浦に投げつけていた。この男は依然として地雷だ。