2020-09-26から1日間の記事一覧
不意に手元が暗くなった。顔を上げると和服姿の佐代が立っていた。唇に浮かべた笑みには企みが満ちているようだ。彼女は無言で向かい側の席に座った。 東野圭吾さんの危険なビーナス
佐代は、じっと伯朗の目を見つめてくる。彼の胸の内を見透かそうとでもするような鋭い視線だった。 東野圭吾さんの危険なビーナス
女性客は伯朗たちを見て、すぐにわかったらしく会釈してきた。上品な顔立ちで、金縁の地味なデザインの眼鏡はいかにも元教師という感じだ。 東野圭吾さんの危険なビーナス
車から降り、家の前に立った。門扉が錆びた小さな門、形ばかりの庭があり、その先に玄関ドアがあった。ドアまでのアプローチに置かれているのは、四角い石がたったの四枚。 東野圭吾さんの危険なビーナス
「あんた、誰」 「私だよ、わたし」老人は自分の鼻の頭を指した。「この家の裏に住んでるイモト。昔よくあんたから、イモのおじさんって呼ばれたよ」 「イモのおじさん……」 伯朗の白く靄のかかった記憶が、弱々しく形を作り始めた。 東野圭吾さんの危険なビ…