2022-01-04から1日間の記事一覧
街はうだっていた。焼けたアスファルトが陽炎に歪み、そこを歩く誰もが、もはや今年の猛暑を疑っていない顔だった。 横山秀夫さんの動機より
大きく張り出した頬骨。猛禽類のような鋭い目。そこまでは保存の顔写真で知っていたが、実物は、その顔の下にラグビー選手を思わす巨体を持っていた。 横山秀夫さんの動機より
硬い声が耳に吹き込まれた。本部警務課の井岡係長。貝瀬の直属の部下だ。 横山秀夫さんの動機より
父は娯楽室にいた。壁に向かってだらしなく胡座をかき、目脂(めやに)の底に沈んだ瞳を畳の一点に落としていた。薬が効いている。年を追うごとに量を増す薬が、父の言葉や表情や癖までも一つずつ奪ってきた。 横山秀夫さんの動機より
「失礼ですが、どちらさまでしょうか?」 えっ? 山本の頭は空転した。 横山秀夫さんの動機より