2020-05-12から1日間の記事一覧
無理に作っている笑みが強張っている。垂れ目気味でどこか気弱にも見えるその横顔には、油断のならない狡猾さも見え隠れし、六十男が持っているような余裕や貫禄といったものはまるで見当たらない。最上にはその人相が卑しく見えた。 雫井脩介さんの検察側の…
「あなたが見た男は、今、取調室にいた男に間違いはないんですね?」 「ええ、見たとたん、思い出しました。あの人です」 尾野治子は少し入れ歯が浮いたような、もごもごした言い方であったが、口調は捜査協力をしているという意識から少し高揚しているよう…
最上はうつむいた姿勢のまま、動こうとしない。 全身で聴覚を司っているかのように、取調室のやり取りに集中している様子だ。 雫井脩介さんの検察側の罪人より 【中古】 検察側の罪人(上) 文春文庫/雫井脩介(著者) 【中古】afbposted with カエレバ楽天市場…
「何時頃?」 「たぶん、五時半とかそれくらいかと……」 「おかしくないか?」森崎は上目遣いに刺すような視線を松倉に向けた。「五時半に家に行って、そのあと六時になって、そっちにお邪魔していいか訊くなんてさ」 雫井脩介さんの検察側の罪人より 【中古…
笑みの描写をおすすめ小説から学ぶ 最上が強気の言葉を送ると、森崎は缶ビールに口をつけながら、目尻に小さな笑い皺を刻んだ。 雫井脩介さんの検察側の罪人より 【中古】 検察側の罪人(上) 文春文庫/雫井脩介(著者) 【中古】afbposted with カエレバ楽天市…
少女の描写をおすすめ小説から学ぶ 人見知りで臆病で、しかし心を開くと、茶目っ気のある笑顔を惜しみなく振りまいてくれた。素朴な愛嬌は、まさに下町娘のそれであり、道産子の血を引くそれであった。優しさの萌芽を両手に抱えていて、それは数年先、女とし…
目の描写をおすすめ小説から学ぶ 田名部は席を立ち、最上らに合流する。眼鏡の奥にある切れ長の目からは、どんな感情が秘められているのかうかがい知ることはできない。 雫井脩介さんの検察側の罪人より 【中古】 検察側の罪人(上) 文春文庫/雫井脩介(著者)…
古ぼけたアパートの描写をおすすめ小説から学ぶ くすんだベージュ色のモルタル塗りのアパートだった。左右にも同じようなアパートが迫っていて、日当たりがよくない。郵便受けは塗装が剥がれてそこかしこに錆が浮き、いくつかのそれにはチラシが差しこまれた…
残念な口調の表現をおすすめ小説から学ぶ 「どうでしたか?」 警察のバンに乗りこんで大きく息をつくと、長浜が逆に、中の成果を訊いてきた。 「ふむ……」最上は苦味を口調に混ぜた。「あとは取り調べに懸けるしかないな」 「そうですか」長浜は残念そうに呟…
落ちぶれた男の描写をおすすめ小説から学ぶ 白髪の混じった短髪は寝癖がつき、肌は荒く無精ひげが伸びている。垂れ目がちの目はまぶたが重そうで、聡明さは微塵も感じ取れない。 雫井脩介さんの検察側の罪人より 【中古】 検察側の罪人(上) 文春文庫/雫井脩…