一滴の血すらも分けなかった菜穂を、三十年余り自分の娘として育て、接してきた。それは動かしがたい事実であった。 それに気づいたとき、湿った突風が菜穂の中に巻き起こった。心がぐらりと母に向かって傾いてしまいそうだった。 原田マハさんの異邦人(いり…

俺はもしかすると、あいつに悪いことをしちまったかな。叱ったことに後悔はないけれど、心のどこかがそんなことをつぶやいている。 坂木司さんのワーキング・ホリデーより

胸底から焦燥が湧き上がり始めた時、岸辺に踏みとどまっていた死体が押し寄せてきた流れにあっけなく呑み込まれた。 中山七里さんの贖罪の奏鳴曲(ソナタ)より