2021-02-19から1日間の記事一覧
「名前は、何ていうのかね」 電灯を背にして影絵になった男の顔を見上げ、峰子はきっぱりと答えた。 浅田次郎さんのおもかげより
小鳥の囀ずりがかすかに聞こえる。壁や天井に青みがさしてきた。二万何千回もくり返された、僕の夜明け。 浅田次郎さんのおもかげより
ほんの一分が二分、いったい何を話したのか、身を切るような寒さと低い鈍空(にびぞら)しか記憶にはない。節子は僕のうしろに、所在なさげに佇んでいた。 浅田次郎さんのおもかげより
薄く紅をさした唇をぐいと引き結んで、節子は涙を流した。 浅田次郎さんのおもかげより
たった一年。やはりどう考え直してみても一年。毎日を鑿(のみ)で刻んでゆくような一年だった。僕らは若過ぎて、恋愛が成就されない予測がついたから、一瞬を大切にしたのだと思う。 浅田次郎さんのおもかげより